大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 平成4年(行コ)1号 判決 1993年6月30日

島根県浜田市殿町一〇番地四

控訴人

中山俊彦

右訴訟代理人弁護士

中村寿夫

島根県浜田市殿町一一七七番地

被控訴人

浜田税務署長 大石宗男

右指定代理人

富岡淳

岡田克彦

中野裕道

大橋勝美

矢野聡

西村章

上山本一興

樋野麗

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の申立

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が昭和五九年七月九日付けでした昭和五五年分所得税の更正のうち事業所得の金額一九六〇万一八九七円、納付すべき税額五三三万四二〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定のうち税額六万七〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(但し、変更決定及び審査裁決により取り消された後のもの)を取り消す。

(三)  被控訴人が昭和五九年七月九日付けでした昭和五六年分所得税の更正のうち事業所得の金額二七四〇万二七五九円、納付すべき税額九三八万〇九〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定のうち税額八万三五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

(四)  被控訴人が昭和五九年七月九日付けでした昭和五七年分所得税の更正のうち事業所得の金額二五五八万二七八四円、納付すべき税額七四五万二一〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定のうち税額四万〇五〇〇円を超える部分(但し、変更決定により取り消された後のもの)を取り消す。

(五)  被控訴人が昭和五九年七月九日付けでした昭和五八年分所得税の更正のうち事業所得の金額三四六三万五七六二円、納付すべき税額一一九八万二〇〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定のうち税額一〇万一〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

(六)  控訴費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

二  事案の概要

次のとおり付加・訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する

1  原判決四枚目表初行の「昭和五七年分」を「昭和五六年分」と改める。

2  原判決一六枚目表一一行目及び同裏九行目の各「増田康子」をいずれも「増田泰子」と改める。

3  原判決一六枚目裏一二行目の「ある。」の次に「なお、控訴人医院では就業規則(甲第二号証)が制定されたことはなく、ただ、他の病院の就業規則を参考としていたことはあるが、これに従って労使関係が規律されていた事実もないから、控訴人医院における退職金は従業員に法的請求権のない任意的、功労報償的性格のものであり、支給の有無・金額については使用者である控訴人に裁量権があるので、その金額が特に過大でない限りは、その金額が必要経費に算入されるべきである。」を加える。

4  原判決一七枚目裏一一行目の「回収不能に不能」を「回収不能」と改める。

三  争点に対する当裁判所の判断

原判決摘示の争点に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」欄の説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一九枚目表八行目から同裏九行目までを次のとおり改める。

「1 自白の撤回について

前記争いのない事実及び原審訴訟記録によれば、被控訴人は、本件各更正決定において、控訴人の本件各係争年分の事業所得に関する雑収入としてそれぞれ七二万円を加算計上し、また原審第四回口頭弁論期日(昭和六三年三月九日)において、右雑収入を控訴人の本件各係争年分の収入に計上する根拠として、控訴人が、本件各係争年においてそれぞれ退院者等から謝礼として少なくとも七二万円以上の金品を収受したにもかかわらず、確定申告の基礎となる収支計算の収入に計上していなかったから、本件各係争年分の収入に計上すべきである旨陳述したこと、控訴人は、本訴状において、控訴人が退院者から謝礼として商品等の物品を受領していたことを前提として、「控訴人が退院者から受け取る謝礼は商品等の物品であり、社会的儀礼の範囲内の物品の授受であるから雑収入とはいえない」と主張していたが、原審第六回口頭弁論期日(昭和六三年九月七日)において、「被控訴人の更正処分のうち雑収入に関する部分を認める」と陳述したことが認められる。

控訴人の原審第六回口頭弁論期日における右陳述は、右認定の原審における弁論の経過も考慮すると、控訴人が本件各係争年においてそれぞれ退院者等から謝礼として少なくとも七二万円相当の金品を収受していたとの被控訴人の事実主張を認めたうえ、これが控訴人の本件各係争年分の事業所得に関する収入に計上されるべきであるとの被控訴人の法的主張の正当性をも認める旨の陳述と解されるから、右陳述中被控訴人の事実主張を認める部分は自白に当たるが、被控訴人の法的主張の正当性を認める部分は法律の解釈適用に関する陳述であって事実に関する陳述ではないから、自白には当たらないものというべきである。

ところで、控訴人は、原審第一六回口頭弁論期日(平成二年一二月五日)において、右雑収入に関して本訴状における前記主張を改めて主張する旨陳述したのであるが、控訴人の本訴状における前記主張は、前述のとおり控訴人が退院者から謝礼として商品等の物品を受領していたことを前提として、これら物品の受領は社会的儀礼の範囲内のものであるから雑収入には当たらないとの法的主張をしていたにすぎないから、このような主張を再度することとしたからといって、そもそも被控訴人の前記事実主張についての自白を撤回したこととはならないものいうべきであり、仮に控訴人の原審第一六回口頭弁論期日における右陳述が被控訴人の前記事実主張についての自白の撤回に当たるとしても、後記2に認定するとおり、控訴人が本件各係争年においてそれぞれ退院者等から謝礼として少なくとも七二万円の金品を収受していたのであるから、右自白は真実に反するものということはできないので、控訴人による右自白の撤回は許されない。」

2  原判決二〇枚目表一一行目の「から」を「ところ」と改め、同裏九行目から一〇行目にかけての「いることについて、立証を欠くから」を「いるため、課税庁が租税法規に従ってなす課税処分であってもこの取扱いに反するため違法となるというような特段の事情については、これを主張する者においてその存在を窺わせるに足りる一応の証拠を提出することを要するものというべきであるところ、右証拠の提出がなく、かつ、本件全証拠によっても右特段の事情は認められないから」と改め、同一〇行目末尾に「また、控訴人は、控訴人自身が費消できず、あるいは必要としない物品を謝礼として受領しても、その物品の時価に相当する経済的利益を享受したことにはならないとも主張するが、控訴人が物品を受領することによって受ける経済的利益は受領した物品の客観的な価格によって算定されるべきものであって、個々人の主観や必要の程度によって算定されるべきものではなく、このことは所得税法二六条二項の規定に照らしても明らかであるから、到底採用できない。」を加え、同二一枚目表六行目の「右贈与をもって、」の次に「福利厚生あるいは接待交際等の控訴人医院の業務上の目的に出たものということができず、したがって」を加える。

3  原判決二二枚目裏六行目の「理由としていたこと」を「理由としていたもので、右家事費の割合を原処分が一九・二パーセントとしていたのを本訴において二六・二パーセントと主張するにすぎないこと」と改め、同二三枚目裏二行目の「事実」の次に「及びこの喫食が控訴人医院の業務上の必要に基づくものでない事実(所得税法三七条一項参照。以下『業務性非該当事実』ともいう。)」を加え、同行の「右陳述は、」の次に「『被控訴人の更生処分のうち賄費に関する部分を認める』との内容であるところ、本件各更正決定は、控訴人及びその家族が控訴人医院で作った病院食を喫食し、その総額が賄費総額の一九・二パーセントになるとして、控訴人が確定申告において必要経費でないことを自認していた賄費総額の五パーセントとの差額につき経費否認したものであったから(乙二五、弁論の全趣旨)、」を加え、同五行目から六行目にかけての「すぎないと認められるから」を「すぎないところ、控訴人が認めた賄費総額の一九・二パーセントは被控訴人が本訴で主張している賄費総額の二六・二パーセントのどの部分の事実に対応するものか特定されていないのであるから、未だ喫食あるいは業務性非該当に関する具体的な事実についての陳述とはいえず、したがって」と改め、同九行目から同末行までを「また、被控訴人は、控訴人が右のように賄費の一部についての経費否認を認める旨の陳述を撤回することは時期に遅れた攻撃防御の方法であると主張するが、控訴人及び被控訴人が右陳述の撤回にかかる事実を立証あるいは反証するために申請した証拠は、控訴人申請の証人中山端江一名であるところ、同証人は、他の争点(被控訴人が必要経費算入を否認する接待交際等)をも尋問事項とする証人として取り調べられたのであるから、控訴人の右陳述の撤回によって訴訟の完結を遅滞せしめるものとまでは認められないので、被控訴人の右主張は採用できない。」と改める。

4  原判決の二四枚目裏八行目の「第一、二回」の次に「、当審」を加え、同二五枚目表六行目の「原告」から同八行目の「主張」までを「控訴人及びその家族が毎日病院食を喫食していることを前提として、控訴人、中山教枝及び中山端江が病院食を喫食しているのは、週一回総評会を開いて病院食の質の向上に努めているためであって、事業遂行上必要な経費であり、また、控訴人の家族が喫食した病院食は、緊急入院の患者に備えて常に五食ほど余分に作っていたものであるから、もともと必要経費となるべきものであるとの主張」と改め、同一一行目の「できない。」の次に「なお、控訴人は、控訴人及びその家族が喫食する病院食のうちには検食目的の分もあったと主張し、右のとおりこの主張に副う証言及び供述もあるが、弁論の全趣旨によると、控訴人医院には検食者やその結果についての記録も存在しないことが認められるうえ、控訴人主張のような週一回の総評会が開かれた事実を認めるべき証拠もないから、これら証言等もたやすく信用できず、控訴人の右主張にかかる事実は認められない。」と改め、同裏三行目末尾に「当審証人江村セツの証言は、その内容が曖昧であって、以上の認定判断を左右するに足りない。」を加える。

5  原判決二六枚目裏一一行目の「に関し、」を「として計上した支払額のうち購入先である福田美装に対する支払額に関し」と改め、同一二行目の「金額について」の次に「家事費であるとして」を加え、同二七枚目表二行目の「原告が」の次に「購入先である福田美装に対して支払った金額を」を加え、同四行目の「右主張は、」の次に「本件各更正決定の附記理由との間に、同一の購入先に対する支払額についてその一部が家事費に当たるとの同一の理由によって必要経費であることを否認する点で共通し、ただその範囲が相違しているにすぎず、したがって被控訴人に右主張を許しても控訴人に本件各更正決定の効力を争うにつき格別の不利益を与えるものではなく、実質的には基本的課税要件事実の同一性に欠けるところはないというべきであるので、」を加える。

6  原判決二七枚目表七行目から同二八枚目表九行目までを次のとおり改める。

「2 自白の撤回について

青色申告納税者である控訴人が確定申告において事業所得の算出計算における必要経費として計上した備品消耗品費が必要経費でないことについての主張立証責任は課税庁である被控訴人が負担するが、その場合に主張立証すべき事項は、備品消耗品の購入の不存在あるいはその購入の業務性非該当事実であると解される。

ところで、前記争いのない事実及び原審訴訟記録並びに乙第二五ないし第三〇号証によれば、被控訴人は、本件各更正決定においては、原判決添付別表二の備品消耗品費欄の更正附記理由欄記載のとおり、控訴人が確定申告において必要経費として計上した備品消耗品費中福田美装に支払われた分のうち昭和五五年分は一七万一四二〇円(この金額は裁決によって一一万三四八〇円に減額された。)、昭和五六年分は五三万八九一六円、昭和五七年分は三八万八七三五円、昭和五八年分は五六万三六六五円をそれぞれ家事費であるとして必要経費性を否認していたが、原審第四回口頭弁論期日(昭和六三年三月九日)において、控訴人が確定申告において本件各係争年分の事業所得に関する必要経費として計上した備品消耗品費のうち福田美装に支払われた分について、別紙「備品消耗品費等否認明細」の備品消耗品費欄記載のとおり、本件各係争年分ごとに必要経費と認める額及び家事費として必要経費性を否認する額を区分したうえ、家事費として必要経費性を否認する額を昭和五五年分は一一万三四八〇円、昭和五六年分は五四万一五二六円、昭和五七年分は四九万六三九五円、昭和五八年分は五九万五四四五円としたが、その明細(個々の取引の内訳)を明らかにせず、他方必要経費と認める額についてはその額とともに別紙「備品消耗品費の内訳明細」記載のとおりその明細(個々の取引の内訳)を明示して主張したこと、控訴人は、原審第六回口頭弁論期日(昭和六三年九月七日)において「控訴人の更生処分のうち備品消耗品費(裁決によって取り消された部分を除く)に関する部分を認める」と陳述したことが認められる。

右によれば、控訴人の原審第六回口頭弁論期日における右陳述は、昭和五六年分ないし昭和五八年分の備品消耗品費に関しては、控訴人が必要経費否認を認めた範囲は被控訴人が本訴で主張する否認額の一部にすぎず、しかも、右陳述の当時においては被控訴人の否認額にかかる取引の内訳も明らかでなかったのであるから、被控訴人の否認額にかかる取引のうち控訴人が必要経費でないことを認めた範囲は特定しないので、特定の備品消耗品費につき購入事実の不存在あるいは業務非該当事実を認めたものということはできず、自白は成立していないというほかない。

しかし、昭和五五年分の備品消耗品費に関しては、控訴人は、控訴人が計上した福田美装に対する備品消耗品費三〇万四七〇〇円のうち被控訴人主張の必要経費否認額一一万三四八〇円の全額について必要経費に当たらないことを認めたのであるところ、右陳述の当時においては被控訴人の否認額にかかる取引の内訳は明らかではなかったものの、被控訴人が必要経費と認めた取引の内訳は明らかとなっていたのであるから、被控訴人が必要経費に当たらないことを認めた備品消耗品の取引は控訴人が計上した福田美装に対する備品消耗品費のうち被控訴人が必要経費と認めた取引以外の取引として特定されていたものと解されるので、右陳述は、少なくとも被控訴人の否認額にかかわる備品消耗品の購入につきその業務性非該当事実を概括的に認めたものとして、自白の成立を認めるのが相当である。

してみると、控訴人が原審第一六回口頭弁論期日(平成二年一二月五日)において、改めて昭和五五年分の備品消耗品費の必要経費否認額一一万三四八〇円が必要経費である旨主張したことは、自白の撤回に当たるものであるが、後記2に認定するとおり、右否認額にかかわる備品消耗品の購入については業務性非該当事実が認められるのであるから、右自白は真実に反するものということはできず、控訴人による右自白の撤回は許されない。

なお、被控訴人は、控訴人が右のように昭和五六年ないし昭和五八年分の備品消耗品費の一部についての経費否認を認める旨の陳述を撤回することは時期に遅れた攻撃防御の方法であると主張するが、控訴人及び被控訴人が右陳述の撤回にかかる事実を立証あるいは反証するために申請した証拠は、控訴人申請の証人中山端江一名であるところ、同証人は、他の争点(被控訴人が必要経費算入を否認する接待交際等)をも尋問事項とする証人として取り調べられたのであるから、控訴人の右陳述の撤回によって訴訟の完結を遅滞せしめるものとまでは認められないので、被控訴人の右主張は採用できない。」

7  原判決二八枚目裏五行目の「同表」を「別紙『福田美装との取引内訳等』の左表の認容科目欄に『備品消耗品費』と記載されている取引であって、その合計額は原判決添付別表四」を加え、同二九枚目裏六行目の「区分された」を「区分されていて、応接室は元来控訴人一家の居宅部分に属する」と改め、同七行目の「右応接室が」の次に「従業員のミーテイングルームとして事業の用に供されていたとのみ主張し、」を加え、同三〇枚目表初行末尾に「仮に右応接室が控訴人主張の目的にも使用されていたとしても、右応接室は元来控訴人一家の居宅部分に属し、かつ、実際にも控訴人一家の家庭生活上の目的にも使用されていたのであるから(証人中山端江〔原審第二回〕、弁論の全趣旨)、右応接室のための備品消耗品費は所得税法四六条一項一号の家事上の経費に関連する経費(いわゆる家事関連費)に該当するが、証拠(乙二六ないし二九、証人中山端江〔原審第二回〕、弁論の全趣旨)によれば、右備品消耗品費のうち控訴人の業務の遂行上必要である経費部分がそれ以外の経費部分から明らかに区分できるものとは認められず、また、控訴人の業務の遂行上直接必要であることが帳簿上明らかであるとも認められないから、必要経費に算入することは許されない(所得税法四六条一項一号、同法施行令九六条一号)。」を加える。

8  原判決三〇枚目表二行目から同三一枚目表二行目までを次のとおり改める。

「また、控訴人は昭和五八年分の備品消耗品費に関し、控訴人が福田美装から購入したカーテン等の代金一四二万四一〇三円は、一体をなすカーテン等の代金二四五万九六〇三円の一部未払代金であり、右カーテン等は昭和五八年一二月二二日と昭和五九年一月三一日の二回にわたって納品されたが、昭和五八年中に支払義務が確定していたから、同年分の備品消耗品費として必要経費に算入されるべきであると主張する。しかし、証拠(甲一三、乙一〇、二九、証人中山端江〔原審第二回・当審〕)によれば、控訴人は控訴人医院の業務用備品として福田美装からカーテン等を代金一〇三万五五〇〇円で購入し、昭和五八年一二月二二日に引渡しを受けてその旨の納品書を受領し、その代金は同月中に支払われ、購入にかかるカーテン等は控訴人の同年分総勘定元帳(乙二九)の器具備品勘定に計上処理されていること、他方、同勘定には、右購入とは別に、同月三一日付決算修正として福田美装に対する未払金一五〇万円が計上されたうえ、内金一四二万四一〇三円が同年分総勘定元帳の備品消耗品費勘定に振り替えられているが、福田美装に保管されている納品書控え(乙一〇)の中には右未払金一五〇万円あるいは振替金一四二万四一〇三円に相当する取引に該当する納品書控えが存在しないため、右未払金計上や振替金処理の経緯は不明であること、なお、控訴人は控訴人医院の業務用備品として福田美装からカーテン等を代金一二一万九五八〇円で購入し、昭和五九年一月三一日に引渡しを受けてその旨の納品書(昭和五八年一二月二二日引渡し分とは別個の納品書である)を受領し、その代金は同日後に支払われたこと(なお、控訴人と福田美装との取引においては購入物品が納入された後にその代金が支払われていた。)が認められ、これら事実によると、控訴人と福田美装との間に右未払金一五〇万円あるいは振替金一四二万四一〇三円に相当する取引が真実存在したのかどうかは疑わしく、仮に昭和五九年一月三一日に引き渡された代金一二一万九五八〇円のカーテン等がこれに該当するものとしても、この取引が昭和五八年一二月二二日に引き渡されたカーテン等との取引と一体をなし、その代金債務が同年中に確定していたとの事実は認められず、かえって購入物品の納入時期及び代金支払時期の相違、別個の納品書の存在を考慮すると、昭和五八年一二月二二日引渡しのカーテン等と昭和五九年一月三一日引渡しのカーテン等とは別個の取引であり、昭和五九年一月三一日引渡しのカーテン等の取引による代金債務は引渡しの時である同日に支払うべき債務として確定したものというべきである。したがって、一四二万四一〇三円が昭和五八年分の備品消耗品費として必要経費に加算されるべきであるとの控訴人の主張は採用することができない。」

9  原判決三一枚目表四行目から同裏一二行目までを次のとおり改める。

「青色申告納税者である控訴人が確定申告において事業所得の算出計算における必要経費として計上した修繕費及び雑費が必要経費でないことについての主張立証責任は課税庁である被控訴人が負担するが、その場合に主張立証すべき事項は、個々の支出の不存在あるいはその支出の業務性非該当事実であると解される。

ところで、前記争いのない事実及び原審訴訟記録並びに乙第二五ないし第三〇号証によれば、被控訴人は、本件各更正決定において、控訴人が確定申告において本件各係争年分の事業所得に関する必要経費として総勘定元帳の記載に基づいて計上した修繕費及び雑費のうち福田美装に支払われた分全部について家事費であるとして必要経費性を否認したが、原審第四回口頭弁論期日(昭和六三年三月九日)においても右と同旨の主張をしたこと(もっとも、必要経費であることを否認する取引の明細(個々の取引の内訳)は明らかになっていなかったこと)、控訴人は、原審第六回口頭弁論期日(昭和六三年九月七日)において「被控訴人の更正処分のうち修繕費及び雑費に関する部分を認める」と陳述したことが認められる。

右によれば、控訴人の原審第六回口頭弁論期日における右陳述は、その陳述がなされた当時においては被控訴人の必要経費性を否認する取引の内訳が明らかでなかったが、控訴人は控訴人が総勘定元帳に基づいて計上した福田美装に対する修繕費及び雑費の支払額全額が必要経費でないことを認めていたのであるから、控訴人がその支払が必要経費とならないことを認めた取引は控訴人が計上した福田美装に対する修繕費及び雑費支払として特定されているものと解されるので、右陳述は、少なくとも右のようにして特定された修繕費及び雑費支出の業務性非該当事実を認めたものとして、自白の成立を認めるのが相当である。

してみると、控訴人が原審第一六回口頭弁論期日(平成二年一二月五日)において改めて右修繕費及び雑費について必要経費算入を主張したことは、自白の撤回に当たるものというべきである。

そこで、自白の撤回の可否について検討するに、証拠(乙九、一〇、弁論の全趣旨)によれば、右必要経費であることを否認された修繕費及び雑費支出は家事費に当たるものと認められるから(なお、控訴人は、前記備品消耗品費の必要経費算入の主張と同様に、右必要経費否認にかかる修繕費及び雑費は、控訴人の業務の遂行のためにも使用していた応接室に関するものであるから、必要経費に算入されるべきであると主張するが、右応接室が控訴人の業務の用に供されていたものとは認められないこと、仮に控訴人の業務の用にも供されていたとしても、証拠(乙二六ないし二九、証人中山端江〔原審第二回〕、弁論の全趣旨)によれば、右修繕費及び雑費のうち控訴人の業務の遂行上必要である経費部分がそれ以外の経費部分から明らかに区分できるものとは認められず、また、控訴人の業務の遂行上直接必要であることが帳簿上明らかであるとも認められないため、必要経費に算入することが許されないことは、前記三の3に説示したとおりであるので、控訴人の右主張は採用することができない。)」

10  原判決三二枚目裏一一行目から同三三枚目表末行までを次のとおり改める。

「青色申告納税者である控訴人が確定申告において事業所得の算出計算における必要経費として計上した接待交際費が必要経費でないことについての主張立証責任は課税庁である被控訴人が負担するが、その場合に主張立証すべき事項は、個々の支出の不存在あるいはその支出の業務性非該当事実であると解される。

ところで、前記争いのない事実及び原審訴訟記録並びに乙第二五ないし第三〇号証によれば、控訴人は、確定申告において、昭和五八年分の事業所得にかかわる必要経費として総勘定元帳の記載に基づいて接待交際費四二二万二四九八円を計上したが、被控訴人がそのうち原判決添付別表六記載の支出(但し、順号73の支出金額は四万六二〇〇円であった。なお、順号10の支出月日は三月一九日の誤記である。)合計九七万九一三〇円の必要経費算入を否認したこと、本件各更正処分等に対する審査手続において、控訴人が右経費否認の不当を主張したところ、国税不服審判所長は、同表の順号を丸印で囲んだもののうち順号14及び50を除いた支出五七万一五六〇円についてはこれら支出を個別に摘示して被控訴人の経費否認が相当である旨を理由中に明示する裁決をしたこと(なお、順号73の支出金額一万一八〇〇円は控訴人主張の支出金額四万六二〇〇円のうち橋ケ迫に対する支出分であり、その余の支出金額は従業員の忘年会の隠し芸大会の賞品代との控訴人の主張が容れられて必要経費と認められた。)、被控訴人は、原審第四回口頭弁論期日(昭和六三年三月九日)において、判決が経費否認を認めた支出五七万一五六〇円を含む合計六一万二五〇〇円の支出を個別に明示して経費否認の主張をしたところ、控訴人は、原審第六回口頭弁論期日(昭和六三年九月七日)において「被控訴人の更正処分のうち接待交際費に関する部分(裁決によって取り消された部分を除く)を認める」と陳述したことが認められる。

右によれば、控訴人の原審第六回口頭弁論期日における右陳述は、右陳述の当時、裁決が経費否認を相当とした支出五七万一五六〇円の具体的内訳は既に被控訴人の弁論に顕われていたうえ、前記裁決の内容に照らしてその範囲も特定していたのであるから、控訴人が裁決によって否認された接待交際費支出の業務性非該当事実を認めたものとして、自白の成立を認めるのが相当である。

してみると、控訴人が原審第一六回口頭弁論期日(平成二年一二月五日)において改めて右接待交際費支出に関して必要経費算入を主張したことは、自白の撤回に当たるものというべきである。」

11  原判決三三枚目裏三行目の「検討するに、」の次に「証拠(乙二五、二九、四五、証人山中端江〔原審第二回〕、弁論の全趣旨)によれば、」を加え、同末行の「21、」を削除し、同三四枚目表九行目の「支出であるが、」の次に「証拠(証人山中教枝、控訴人本人)によれば、」を加え、同一二行目から末行にかけての「原告の事業の遂行上必要なものとは認められないし、」を削除し、同裏五行目から六行目にかけての「やはり原告の事業の遂行上必要なものとは認められない。」を削除し、同六行目の「順号」の次に「21、」を加え、同九行目の「支出であるが、」の次に「証拠(証人山中端江〔原審第二回〕、控訴人本人)によれば、これらの者とは個人的な親交があったうえ、」を加え、同一一行目の「そのための支出は」を「以上の各支出は、」と改め、同末行の「維持する」を「維持し、あるいは控訴人の個人としての社会的儀礼を尽くす」と改め、同三五枚目表初行の「(右は」を「ところ、いずれも」と改め、同三行目の一)。」を削除し、同三六枚目裏一一行目の「二九」を「二五、二九、弁論の全趣旨」と改め、同三七枚目表七行目の「五一万六一二〇円が減算」を「五二万七九二〇円が減算され、同額が控訴人の昭和五八年分確定申告にかかる事業所得額に加算」と改める。

12  原判決三七枚目裏五行目の「答述〕」の次に「、証人平川ひろみ」を加え、同三八枚目表一二行目の「〔第一回〕」を「〔原審第一回、当審〕」と改め、同三九枚目裏三行目末尾に「なお、証人江村セツヨの証言も右認定を左右するに足りない。」を加え、同四〇枚目表一一行目の「三九」の次に「、証人平川ひろみ」を加え同裏一一行目の「〔第一回〕」を「〔原審第一回、当審〕」と改め、同四一枚目表五行目末尾に「なお、証人江村セツヨの証言も右認定を左右するに足りない。」を加える。

13  原判決四二枚目裏七行目の「給与規程」を「就業規則中の給与規程」と改め、同一一行目、同四三枚目裏初行、同六行目、同四五枚目表四行目及び同四六枚目表九行目の各「増田康子」をいずれも「増田泰子」と改め、同裏三行目末尾に「昭和五七年末当時、控訴人医院の患者が減少するかどうかの予測がついておらなかったうえ、」を加え、同五行目の「平野幸子は、」の次に「控訴人医院退職に特に反対の意思表示をすることはなく、」を加え、同八行目の「ら、」の次に「平野幸子の退職について控訴人主張の事情があったとしても、控訴人医院の従業員の退職金として平野幸子に対し給与規程の基準を上回る退職金を支給するのを相当とする特別の事情とは解されず、この点に関する」を加え、同一一行目末尾に「仮に控訴人主張の事情が平野幸子の退職金額を給与規程の基準によらない額とすることを正当とする特別の事情に当たるとしても、右事情のみをもっては控訴人が平野幸子に対し給与規程の基準を大幅に上回る多額の退職金を支給する十分な根拠とは到底認められないところ、前認定のとおり平野幸子は控訴人医院の業務に従事したほか控訴人宅の家事をしていたものであり、それ以前は永年控訴人の義母である中山教枝宅の家政婦をしていたものであるから、平野幸子に対する退職金額二〇〇万円はこれら控訴人医院の従業員であること以外の事情も考慮して決められたものと推認するのが相当であり、したがって平野幸子に対する退職金額二〇〇万円は控訴人医院の業務上の必要に基づく部分と控訴人の家事費部分から成る、いわゆる家事関連費に該当するものというべきである。ところで、平野幸子に対する退職金額二〇〇万円のうち控訴人医院の業務上必要部分として明確に区分しうる範囲のみが必要経費に算入しうるのであるが(所得税法四五条一項一号、同法施行令九六条)、この範囲としては、前認定の方法によって平野幸子に支給されていた給料賃金から家事相当額を控除した残額を基にして給与規程に定める退職金支給基準に従って算定するほかないから(他に、平野幸子に対する退職金額二〇〇万円のうち控訴人医院の業務上必要部分を明確に区分する方法や証拠資料はない。)、結局平野幸子に対する退職金額二〇〇万円のうち必要経費に算入しうる額は右方法によって算定された額であるというほかはない。」を加える。

14  原判決四七枚目表九行目と一〇行目の間に次のとおり加える。

「4 なお、控訴人は、控訴人医院の就業規則(給与規程はその一部である。)は法的に効力を有するものではなく、控訴人医院における退職金は従業員に法的請求権のない功労報酬的性格のものであって、支給の有無、支給額は使用者である控訴人の裁量によるから、控訴人がその裁量によって支給した退職金は全額必要経費になる旨主張するところ、証拠(乙二二、山中端江〔原審第一回〕、控訴人本人)によれば、右就業規則は、控訴人が昭和五三年に控訴人医院を開設するに当たって県知事に提出した書類の一つに含まれていたもので、他の医院で使用していたものを控訴人医院用にそのまま転用したものであり、かつ、従業員の意見聴取などの労働基準法所定の制定手続を経ていないものであったことが認められるけれども、右証拠によれば、右就業規則は、控訴人医院の実情に合わせて控訴人において随時訂正されていたところ、前認定のとおり、少なくとも控訴人医院を退職する従業員に支給する退職金は、特別の事情がない限りは、給与規程の基準を参考にして決定されていたものと認められるのであるから、控訴人医院を退職する従業員に対して支給された退職金が、特別の事情もなくして、給与規程を基準として算定した額を超過する場合には、その超過部分は控訴人医院の業務との関係のない事由による支給額と推認されてもやむを得ないというべきであり、このことは給与規程が就業規則としての効力を有するか否かには直接かかわらないから、控訴人の右主張は採用できない。」

15  原判決四九枚目裏六行目の「減額されるべき金額は一定額になるはずである」を「開業時に無償提供を受けた医薬品の存在を理由にして減額されるべき金額は毎年一定であるか逐年減少するはずであって、増加するはずはない」と改め、同八行目から九行目にかけての「毎年異なっていること」を年によって増減している事実(乙一、一六ないし二一)」と改める。

四  結論

したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく棄却を免れない。

よって、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 渡邉安一 裁判官 長門栄吉)

備品消耗品費の否認明細(竹田博分)

<省略>

福田美装との取引内訳等(昭和55年分)

<省略>

<省略>

福田美装との取引内訳等(昭和56年分)

<省略>

<省略>

福田美装との取引内訳等(昭和57年分)

<省略>

<省略>

福田美装との取引内訳等(昭和58年分)

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例